読書大好き♪
パリジャンです。
「神様の御用人」シリーズの第一巻を読みました。
現代の京都を舞台に、主人公・良彦と方位神・黄金(こがね)。
1人と1柱が個性豊かなさまざまな神々に振り回されながらも、
“御用人”として悩みを解決していくというストーリー。
読みやすい文体と馴染みやすいキャラクター。
そして”ほろり”とさせられるような、あたたかいセリフが印象的です。
それでは作品の感想へ、れっつごー☆
一柱(≒一章)以外はお話の結末は載せていません。
どれも心温まるエピソードなので気になる方は是非、読んでみてね。
初版発行 | 2013年12月25日 |
著者 | 浅葉なつ |
イラスト | くろのくろ |
出版社 | アスキー・メディアワークス |
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この作品の好きなところ
主人公の青年:良彦のまっすぐさが何よりの魅力です。
どこにでもいる、そして誰もが共感できるような挫折を味わった
良彦が言うからこそ、やるからこそ、心に響く言葉や行動がたくさん詰まっています。
一巻は彼にとっての”人生のあらたな始まり”の章。
良彦の心の成長にぼくも心を動かされました。
作品の内容
物語のはじまり
主人公である青年・萩原 良彦(はぎわら よしひこ)。
一度は社会人野球チームの一員として就職しましたが、ひざの故障や野球チームの廃止で半年で退職し
いまはフリーターをしている実家住まいの24歳です。
どこにでもいるようなごくごく平凡な彼。
唯一の変わっていることといえば「大主神社(おおぬしじんじゃ)」へ日々、参拝しているということ。
けれどもそれも、とくに信心深いワケでもなく ただ”亡き祖父が通っていたから”なんとなく。
バイト帰りのある日、彼は道端で助けた不思議な老人から
「あとは狐に聞いてくれ」の言葉とともに1冊の冊子を受け取ります。
御朱印帳のようにも思えるその冊子に、あくる朝”方位神”という言葉が浮かび上がります。
いつもの神社にも方位神が祀られていることを親友であり、この神社に出仕に来ている藤波孝太郎から教えられた良彦。
いつもの末社に参拝するとそこには一匹の「狐」が佇んでいました。
狐の名は「黄金(こがね)」、方位の吉兆を司る方位神です。
・亡き祖父が”神様の御用聞き”の仕事をしていたこと。
・良彦がその御用聞きの役目を引き継ぐ役目を授かったこと。を伝え、
「日本の人の子が再び、神々に畏怖と敬いを持つように取り計らうこと」が自身の願いだと告げるのでした。
一柱 狐と抹茶パフェ
「…あの時は、勝手なお願いをしてすいませんでした…」。
いつもの神社でひとり、ぽつりと呟いた良彦。
フリーター生活にそれなりの焦りを感じつつも、つぎの一歩が踏み出せないままでいた彼。
ある日のバイト帰り、道端で助けた不思議な老人から受け取ります。
その冊子が不思議な縁のように良彦をいつもの神社へ導きました。
いつもの神社。ですがそこには老人の言葉どおり、一匹の狐。
黄金(こがね)と名乗った狐の正体は、方位の吉兆を司る神”方位神”でした。
黄金はなにも知らされていない様子の良彦に説明を始めます。
曰く、良彦が受け取った冊子は「宣之言書(のりとごとのしょ)」という名前で
これを手にした人間は冊子に浮き出る神名に従って社を訪ね、そこにおられる神の御用を聞かねばならない。と。
「ていうか、神様なら自分でどうにかできないんすか…?」と尋ねる良彦に
「現代において神は万能ではない」と黄金は言います。
神々の力の源は”人からの感謝の心”。その心を忘れつつある現代においては神々の力も微々たるものになってしまっているのだとか。
本来”御用人”は神々と縁ある家の人間が務めていたが良彦の祖父はその信心深さから先代の御用人になっていたのだそう。
そのような大役がじぶんに回ってきたのが”孫”だったから。と聞き、面白くないという態度をとる良彦にあきれた様子の黄金。
本来なら言うつもりはなかった。と前置きながらも
・仕事でもなくじぶんの身体でもなく、祖父の快復のためだけに祈り続けたこと
・それすらも「勝手な願いだった」と謝罪に来たこと
それらの殊勝な態度が認められ、抜擢されたのだと告げます。
祖父がなぜ、このような大役を担おうとしたのか不思議に思う良彦でしたが「祖父と同じことをすれば、わかることもあるかもしれぬ」との黄金の言葉に”御用人”をしてみようと思い立つのでした。
威厳たっぷりの雰囲気の黄金。
「日本の人の子が再び、神々に畏怖と敬いを持つように取り計らうこと」が願いであると告げます。
でも、宣之言書が黄金の願い事として受理したのは
「美味しい抹茶パフェが食べたい」というもうひとつの願い。
本意ではない、撤回しろ!やり直せ!!
と良彦に迫る、妙に人間くさいところがとっても魅力的な神様です♪
二柱 名言スランプ
今回の神様「一言主大神」は奈良県御所市の葛城坐一言主神社に祀られています。
“どのような願い事でも一言の願いならば叶えてくれる”と信じられ、それ故に地元では「一言さん(いちごんさん)」と親しまれています。
善事・悪事(よごと・まがごと)すら一言で決める言霊の神として大きな力を持っていた彼も、信仰の薄れた現代では中学生男子のような見た目になっていました。
良彦たちを迎えたのは「お杏さん(おきょうさん)」、一言主神の眷属で境内に植わっている樹齢1200年越えの銀杏の精霊です。
今なお人の子たちに信託を下ろしていたが、ある日から引きこもり、オンラインゲーム三昧の一言主大神。その原因は「人々を励ます言葉が浮かばなくなったから」だとお杏さんは語ります。
名言スランプに陥った一言主大神と、心配で心を痛めるお杏さん。2人をどのように救うのか。
良彦のはじめての御用聞きのはじまりです。
一言主大神のスランプの原因は
“言霊の神”でありながら、人の子への信託の言葉がでなくなったこと。
それにはあるひとりの少女が関係していました。
孝太郎と喧嘩別れをしてしまった良彦にも一言主大神は一言の助言を授けます。
しかし、その助言は一言主大神の現状にも関係することでした。
そのことに気づかずスランプに陥った神に、良彦がかける言葉。
言葉の大切さ、言葉以上に大切な”人を思う気持ち”が溢れる感動的なお話です。
三柱 竜神の恋
今回の神様「大御霊龍王」は滋賀県大津市の勢田橋龍宮秀郷社に祀られています。
瀬田川の竜神である彼女は”橋姫(はしひめ)”とも呼ばれています。
かつてはかけがえのない水と、往来の要である橋の守護神として人々に崇められていました。
ですが、今となっては小さな社にひっそりと佇んでいます。
40代ほどの見目美しい外見の橋姫ですが、良彦が訪れた時 彼女は苦しそうな表情を浮かべていました。
そんな彼女の御用は「ボート部を即刻この川より撤退させる」こと。
理由を聞いてみれば、橋姫が小さな蛇になって転寝しているところをボート部の青年に踏みつけられ腰を痛めたからだそう。
また、ボート部の中でもとりわけ「結城(ゆうき)」という青年が気に食わないご様子です。
彼女がなぜ結城青年にこだわるのか。
そこには橋姫にまつわる伝説が関係しているのでした。
橋姫の伝説には「俵藤太秀郷(たわらとうたひでさと)」という武人が登場します。
橋姫と彼とのラブ・ロマンスのお話です。
橋姫のひとりの”女性”としての想いと
彼女がひとりの”神”としてその気持ちに出した答え。
恋心のもどかしさと、それでも恋することは幸せであること。
ちょっぴり切ないけれど、晴れやかな気持ちになれるお話です。
四柱 ゆく年くる年
今回の神様「大歳神(おおとしのかみ)」は歳徳神(としとくじん)とも呼ばれる、新年に福をもたらす年神です。
大晦日の京都、良彦は孝太郎に頼まれ大主神社の手伝いをすることになりました。
商店街に買い出しに来ていた良彦は神社への帰り道、あとをつけてくる小さな存在に気づきます。
その正体は近所に住んでいる小学生の男の子・岡田 友弘くんでした。
神社の手伝いをしている良彦を「神様の知り合い」だと思い、つけてきたのだとか。
どうやら彼には神様にお願いしたいことがあるようです。
「神様はいろんな人の願いを聞いて忙しいから、忘れられないようにちゃんと伝えたいんだ!」と
神様の知り合い探しに一生懸命な友弘。
彼の願い事とはいったいなんなのでしょうか?
友弘くんの願いはまさに”現代のひとりっ子”にありがちなものです。
彼の熱意に真正面から向き合う”神職”としての孝太郎の言葉は
とてもあつくて、あたたかいものでした。
神様を祭るということ。神事を受け継ぐということ。
それはなにも神社での儀式だけではなく
ぼくたちの日常生活でも行うことができます。
信心の気持ちを持つことの大切さを感じられるお話です。
好きな台詞・シーン
『何勝手に食っとんじゃてめぇえええ!!』『何勝手に押印させとんじゃあぁあ!?』
一柱 狐と抹茶パフェ 良彦と出会った黄金の台詞
威厳たっぷりで高位の神である黄金。
ですが 食べてみたい。と密かに願っていた抹茶パフェを良彦に食べられたり、
それで願いが叶ったとして寝てる間に勝手に勝手に宣之言書に
押印(黄金の肉球スタンプ)をされたりと良彦に振り回される黄金が愛らしいです。
ときおり飛び出す、良彦に対しての魂の叫び(笑)
神なのにどこか人間っぽい。そんな魅力にあふれるカワいいモフモフです♪
『誰かが言った一言に救われたり、気づかされたりすることもあるものよ。放った言葉は戻ってこないけど、もう一度真摯な言葉を届けることはできるもの。だからね、そんな難しい顔をして黙ってちゃ損よ』
二柱 名言スランプ 葛城坐一言主神社へのバスの中での老婦人の台詞
これ、とっても深い言葉だと思います。
ひざをかばうのが癖になってしまっている良彦へ老婦人が声をかけたことから
2人の会話が始まります。
おしゃべり好きなせいでしてしまった失敗を話しながらも
「それでもおしゃべりが好きなの」と楽しそうに語る彼女。
孝太郎と気持ちの行き違いで険悪になってしまい自分を責めていた良彦でしたが、
彼女の言葉はそんな良彦をきっと勇気づけたんじゃないかな。
気持ちを伝えるのに必要なのは難しい言葉ではなくて、”真正面から向き合う”心。
言葉の力とはそこに込められた心の力のことなんじゃないかなと思わせられる一言です。
『なぜ、わらわに湿布をよこしたのじゃ?』
『…なぜ自分の寝床を、当然のようにわらわに譲ったのじゃ?』
三柱 竜神の恋 眠る良彦の傍らで話す橋姫と黄金の台詞
『こやつが、そうしたいと思うたからだ』
腰を痛めながらも、良彦の家にやって来た橋姫に対してとった良彦の行動。
「自身が神だからか、それとも哀れだからこのようなことをするのか?」と黄金に問う橋姫と
それに「良彦だからだ」と返事を返す黄金。
ほとんどの神にとって人の子とは『人間』という一括りの存在で、個人として認識することはない。
という見解だった2柱の神の目に良彦のこの行いはどのように映ったんだろう。
良彦はきっと「腰が痛そうだから」という理由でそうしたんだろうけれども、
この優しさ、思いやる気持ちこそが御用人に選ばれた理由なんじゃないかな。
『神様と自分の間に、本来他人は必要ないんだ。どんなにたくさんの人間が、それぞれいろんな話をしようと、神様には全部伝わってるよ』
四柱 ゆく年くる年 孝太郎が友宏にかけた言葉とそのあとに口にした神職であることへの想い
『…でも、神職だから、守っていけるものもある。オレはそれを受け継ぐだけだ』
大主神社へ出仕している孝太郎は良彦とは高校時代からの旧知の仲。
「神社経営は、ビジネスだ」と神職としてあるまじきとも思えるほどの超現実主義な権禰宜(ごんねぎ)の好青年です。
ですが、彼の神職への 神への想いは真摯そのもの。
そのことが伝わってくる言葉ですね。
確かな”信念”と”誇り”を持つ。
彼の神職への想いを感じられる名シーンだね!
まとめ
「神様の御用人」第一巻のあらすじ紹介と感想をまとめでした。
どのお話にも誰かを大切に”想う”気持ちが描かれています。
そのことを身近な題材・シーンにうまく落とし込まれていて、なおかつコメディな部分もあって。
それでいて、しっかりと心に残るものがある。
そんな作品に仕上がっています。
また、実際の伝承とフィクションが織り交ぜられていることも魅力のひとつ。
出てきた神社のことについてちょっぴり詳しくなれるというメリットもあります!!
いつか聖地巡礼とかしてみたいな。と思わされちゃいました(笑)
読みやすい文体なので読書の習慣がない方でも楽しめるかと思います。
おすすめの1冊なので、気になった方は是非 お手に取ってみてくださいね。
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